2006-10-04

宇宙論の話 -その3-

本年度のノーベル物理学賞にジョージ・スムート教授が選ばれたそうです。先ほどニュースで知りました。

スムート教授は、COBE(Cosmic Background Explorer)という宇宙背景放射の観測衛星を使って、宇宙背景放射にゆらぎがあることを実証したことを評価されたようです。このゆらぎが宇宙の初期に銀河の種になったものと考えられています。COBEの予算を獲得する際、「我々は神を見ることができる」といって説得したそうです。

ということで、今回は宇宙背景放射について触れてみたいと思います。

宇宙背景放射は、1964年にベル研究所のペンジャスウィルソンという2人の天文学者が電波望遠鏡の雑音を減らす研究を行っていた際に、偶然発見されました。観測データの中にどうしても消せない雑音があり、そのスペクトルが約3Kの物体から出される黒体輻射に酷似しているということがわかったのです。ペンジャスとウィルソンは、この発見により1978年度のノーベル物理学賞を受賞しています。

実は、宇宙背景放射の発見よりずっと以前(1940年代)にジョージ・ガモフらがビッグバン理論をもとにしてこのタイプの放射の存在を予言していました。当時は、定常宇宙論とビッグバン理論が対立していて、3Kという値はむしろ定常宇宙論の予言する値に近かったのですが、その後、あまりにも滑らかであることがわかり、ビッグバン理論が支持されるようになっていったそうです。

COBEの生のデータを見たことがありますが、黒体輻射に酷似しているなどというレベルではありませんでした。あれはどんなデータよりも正確に黒体輻射そのものです。あんなにエラーバーの狭いデータは見たことありません。寒気がする程、文字どおりピッタリ一致していました。あぁビッグバンは本当にあったんだと感動したものです。仮りに背景放射のゆらぎが発見されていなかったとしても、あのデータだけでノーベル賞ものだと思います。

光の速度が有限である限り、はるか彼方の宇宙を見るということは、はるか昔の宇宙を見るということと同値です。いま100億光年先にある(ように見える)銀河の光は、100億年前にその銀河から放射されたものなのです。宇宙背景放射は、それよりもずっと遠くからやってきています。つまり、銀河が生まれるずっと以前に放射されたものということです。スムート教授が観測した宇宙背景放射は、ビッグバンが起こってからわずか40万年後と考えられています。

現在、我々が観測できる最も遠く最も古い天体は、他でもないこの宇宙そのものなのです。
宇宙背景放射を出している「天体」よりも遠くには何があるのでしょうか?次のように言い換えてもいいでしょう。ビッグバンの前には一体何があったのでしょうか?

いま考えられている答えの1つは「」です。この辺りの話は、素粒子物理にも関係しています。世の中で最も大きな存在が、世の中で最も小さなものの研究と密接に結び付いていることになります。不思議ですね…。

2006-09-27

宇宙論の話 -その2-

夜がなぜ暗いか?それは、宇宙が膨張しているからです。

アインシュタインは、一般相対性理論から導かれる1つの結論として、4次元時空と物質場(当時は電磁場しか知られていませんでしたが)の量 を結びつける方程式を提示しました。その方程式を重力場の方程式(またはアインシュタイン方程式)といいます。はじめ、アインシュタインの重力場の方程式には、負の万有引力(つまり万有斥力)に相当する項(宇宙項)が含まれていました。アインシュタインは、「宇宙は定常状態にあり、銀河は静止している」と考えていたので、この宇宙項によってバランスをとったのです。この宇宙モデルをアインシュタイン宇宙モデルといいます。

ところが、その後、アメリカの天文学者ハッブルによって、多くの銀河はその距離に比例した速さで遠ざかっているという、ハッブルの法則が発見されました。これは、宇宙の膨張を示すものでした。また、フリードマンが重力場の方程式の厳密解の1つを発見し、アインシュタイン宇宙モデルは非常に不安定であって、安定な解(フリードマンの宇宙モデル)は宇宙が膨張(あるいは収縮)していることを示唆していました。後に、アインシュタインは「宇宙項を加えたのは人生最大の過ちであった」として、宇宙項を削除しました。

話はこれで終わりではなく、近年、この宇宙項が別の側面から再び脚光を浴びています。その辺の事情を説明するためには、かなりの下準備が必要です。

数回に分けて説明しますので、今日はここまでにしておきましょう。

2006-09-25

宇宙論の話 -その1-

夜はなぜ暗いのでしょう?

目に見える星々の隙間には、数多くの銀河が存在しています。もしも宇宙が無限に続いており、銀河の数も無限大であったならば、地球上には無限の光が降り注ぎ、何も存在できなくなります。

宇宙に銀河が均等に分布しており、それが無限に続いていると仮定してみます。

まず、半径$r$の球と半径$r+d$($r$≫$d$)の球にはさまれた球殻(A)を考え、その中に存在する銀河の数を$a$個としましょう。次に、半径$2r$の球と半径$2r+d$の球にはさまれた球殻(B)を考え、その中に存在する銀河の数を$b$個とします。

そこで、AとBの体積は表面積にほぼ比例し、それぞれの体積は半径の2乗に比例するはずですから、Bの体積はAの体積の4倍となります。したがって、Bに含まれる銀河の個数は、Aに含まれる銀河の個数の4倍です。だから、$b=4a$です。

一方、光の明るさは距離の2乗に反比例します。したがって、Bに含まれる1つの銀河の明るさは、Aに含まれる1つの銀河の明るさの1/4となります。

以上を合わせて考えると、

球殻Aの明るさ=Aに含まれる1つの銀河の明るさ×$a$
球殻Bの明るさ=Aに含まれる1つの銀河の明るさの1/4×$4a$

∴ 球殻Aの明るさ=球殻Bの明るさ

となり、Aからやってくる光の総量とBからやってくる光の総量は等しいことになります。そして、このような球殻を次々に考えていくと、ある一定の量が無限に加えられていくわけですから、無限の光が降り注ぐことになってしまうというわけです。なのに、現実の夜空は暗い。これをオルバースのパラドックスと呼んでいます。

このパラドックスを解く鍵は、宇宙の膨張にあります。つまり、ここまでの話は、銀河が常に同じ場所にあるということと、銀河が無限にあるということが前提だったわけで、その前提が間違っているということです。この続きは、また次回に…


2006-09-20

暗黒物質の話

世の中、目に見えるものだけがすべてとは限りません。でも、知らず知らずのうちに、ほとんどのものは目に見えるはずだという先入観を持ってしまっています。

一見関係のない話で始めてしまいましたが、銀河の話の続きです。1つの例として、渦巻銀河の回転速度について触れておきましょう。

渦巻銀河は約2億5000万年の周期で回転しています。かなり遅いように思えますが、銀河の直径は10万光年ほどありますので、銀河の外周部では、なんと時速135万6500kmにもなります(計算間違えてたらごめんなさい)。

300000x60x60x24x365x100000x3.14/(250000000x365x24)

=1356480 (km/h)

さて、問題はその速さではなく、中心部から外周部にかけての回転速度の変化のしかたで、ケプラーの法則によれば、外周部では回転速度は急激に遅くなっていくはずなんです。外側に何もなければ

ところがです。驚いたことに、銀河の回転速度は中心から外側にいくほど速くなっていき、一定の半径より外側では回転速度が減少せず、ほぼ一定の値を保っているのです。この現象を説明するには、ケプラーの法則(ひいては万有引力の法則)を疑うか、銀河全体を大きく包む何らかの物質が大量に存在しなければなりません。

銀河のレベルで万有引力の法則を疑うわけにはいきませんから、当然後者であろうと予測されます。

そうすると、その正体はなんなんだという話になって、それを目に見えない物質という意味で、暗黒物質(Dark Matter )と呼んでいるのです。

銀河は光り輝く恒星だけで成り立っているわけではなく、地球のような暗い惑星や近くに恒星のないガス雲などもあるわけですが、暗黒物質の量はそれだけでは到底足りません。

暗黒物質の質量は、なんと観測されている物質の100倍近いと予測されています。宇宙全体の質量の97%ほどが暗黒物質だというのです。言い方を変えると、我々は宇宙のたった3%しか知らないのです!

はるか遠くのクェーサーを発見し、宇宙背景放射(CBR)でビッグバンの名残りも見つけ、宇宙のほとんどを理解したと思っていた天文学者は愕然としたことでしょう。

暗黒物質の正体は、今でも謎のままです。有力な候補として、ニュートリノがあります。ニュートリノの性質はまだよくつかめておらず、質量があるかないかもはっきりしていませんでした。ニュートリノは大量に存在しているので、もしほんのわずかでも質量をもつとしたら、暗黒物質の大部分を説明できるかも知れません。しかも、最近の実験では、質量をもつことが確実視されています。

それでも、暗黒物質のすべてを説明できるとは考えられません。未発見の素粒子の可能性もあります。また、もっと根本的に万有引力の法則が間違っているのかも知れません。さらにいえば、我々の知らない第5の力が働いているのかも知れないのです。


2006-09-17

銀河の種類の話

銀河にはさまざまな種類があります。銀河系がSb型かSBb型かという話を書きましたが、これは形状をもとにしたハッブルの分類を基準にした表現です。

ハッブルの分類によると、銀河は次のような種類に分けられます。
 
 渦巻銀河 :Sa 型 → Sb 型 → Sc
 棒渦巻銀河SBa 型 → SBb 型 → SBc
 楕円銀河 :E0 型 → E1 型 → … → E7
 不規則銀河Irr

渦巻銀河・棒渦巻銀河のa,b,cの記号は、渦の巻き方がゆるいものからきついものへの変化を表します。また、楕円銀河の0,1,…,7は、数字が大きいほど回転楕円体の短軸と長軸の比の1:1からのズレが大きいことを表します。

ただし、これは形状のみに注目した分類で、その起源や性質については考えていません。例えば、楕円銀河は、渦巻銀河よりも巨大なものが多いですし、不規則銀河は複数の銀河が合体(マージング)してできたものらしいということがわかってきています。

さらに、X線で明るく見えるものや赤外線で明るく見えるものなどさまざまです。中には、2つの銀河が衝突しつつあるように見えるものもあります。

天の川は銀河系を内側から眺めた姿ですが、射手座付近には銀河系の中心があります。天の川を赤外線で撮影すると、まさにディスク(渦巻銀河の腕の部分)とバルジ(渦巻銀河の中心部にある球状構造)が見事に見えてきます。

銀河の中心には何があるのでしょうか?

最近の研究では、太陽の200万倍程度の質量をもつブラックホールがあると考えられています。銀河の中心部を銀河中心核といい、特にX線などの放射量が多いものを活動銀河中心核(Active Galactic Nuclei = AGN)と呼んでいます。

このような中心核の活動性に基づく分類もあります。

セイファート銀河(Seyfert Galaxy)

輝線に幅の広い成分が存在する1型とそのような成分の見られない2型に分類される。

クエーサー(quasar)

遠方に見られる異常に明るい天体で、以前は銀河中心核との関係は不明であった。現在観測されている最も遠い天体もクエーサーの仲間である。

ライナー(LINER)

セイファート銀河やクエーサーに比べると低電離の輝線が強いのが特徴。近くの銀河の1/3がこのグループに分類される。

ブレーザー(Blasar)

激しい明るさの変動があり、偏光している。降着円盤の中心から垂直方向にジェットが吹き出していて、その進行方向から観測しているのだと考えられている。

電波銀河(radio galaxy)

文字どおり電波強度の強い銀河。M87が有名。可視光では楕円銀河に見えるが、電波で見ると銀河規模で広がるジェットが見える。

これらの銀河は、「銀河中心核の活動性が異なっていたり、中心核をどの方向から眺めているかということによる見え方が違うだけで、本質的には同類だ」とするAGNの統一理論というのも提唱されています。

銀河の謎は奥が深いです。何よりもその雄大な美しい姿を見たら、誰でも不思議な気持ちになるのではないでしょうか?

2006-09-10

銀河の話

今回は、大きく視点を変えて、マクロな世界を眺めてみましょう。

地球は太陽のまわりを公転しています。最近、惑星の仲間からはずれてしまった冥王星の平均公転半径は 5,913,520,000 km で、その先にはエッジワース・カイパーベルトや彗星の巣といわれているオールトの雲などがあります。太陽系といえるのは、このあたりまででしょう。

太陽系は銀河系の中にあり、銀河系の中心部から約3万光年の位置にあると考えられています。銀河系は、約1000億個の恒星と多量のガスで構成されていて、直径約10万光年のディスクをもち、中心部分にはバルジと呼ばれる球状部があります。さらに、全体を包みこむように数多くの球状星団ハローと呼ばれる部分に分布しています。これまで、銀河系は渦巻銀河(Sb型)であるとみなされてきましたが、最近では、中心に棒状の部分をもつ棒渦巻銀河(SBb型)なのではないかという説が有力です。

さて、このような銀河はどのくらいあるのでしょう?

直径数百万光年ほどの中に、数十個の銀河が集まったものが銀河群ですが、銀河系とアンドロメダ銀河を含む銀河群を特に局部銀河群と呼んでいます。局部銀河群は、直径約300万光年で、約30個の銀河を含んでいます。また、直径1000万光年ほどの範囲に数百個~数千個の銀河が集まった銀河団という集団もあります。銀河系に最も近いのは、おとめ座銀河団です。約6000万光年の距離にあり、約1200万光年の範囲に約2500個の銀河が含まれています。こうした銀河団が1万個以上ありますので、少なくとも数千万個の銀河が存在することになります。

さらに、このような銀河団や銀河群が連なっている、長さ3億光年ほどの大きな集団もあります。これは超銀河団と呼ばれる構造で、我々が住んでいる銀河系は、おとめ座銀河団を含む局部超銀河団(おとめ座超銀河団)に属しています。

普段、夜空を眺めていても、これだけの数がある銀河に気付くことはありません。それは、アンドロメダ銀河を除くほとんどすべての銀河が暗すぎて眼に見えないためです。澄んだ夜空を見たことはありますか?そのとき眼に写るのは、例外なく銀河系内の恒星や太陽系内の惑星だけです。しかし、その星々の隙間には、ぎっしりと数多くの銀河が埋まっているのです。

宇宙には、もっと大きな構造も存在します。それらを宇宙の大規模構造と呼んでいますが、この辺の話は今後の話題としてとっておきましょう。


2006-09-09

場の話

光は波の性質をもっています。古典物理の立場で考えると、波が伝わるには媒質が必要です。一方、光は世の中で最も速く伝わり、真空中でも伝わるということがわかっています。

一般に、波の速さは媒質の硬さが硬い程、速く伝わるはずです。そうすると、正体はわかりませんが、真空中にとてつもなく硬い媒質があることになってしまいます。そこで、何か得体の知れない媒質があると考え、その媒質をエーテルという名で呼んでいました。結局、エーテルは見つからず、通常の物質では説明できませんでした。その当時から、光が電磁波の一種であり、電場と磁場の振動であることはわかっていましたが、電場と磁場(電磁場)の正体がわからなかったわけです。

このように考えてみたらどうでしょう?

例えば、電光掲示板。電光掲示板の上には、小さな発光ダイオードが格子状に並んでいます。これらの発光ダイオードの位置は固定されていますが、そこに表示される文字はあたかも動いているように見えます。実際には1つ1つの素子が点滅を繰り返しているだけで、動いているように見えるのは、点滅のパターンを情報として与えているからです。

電光掲示板のようなもの(電磁場)が目に見えない空間の中に存在し、そこに映し出された光点が光の量子だとしたら、媒質が動くこともなく光の量子が空間の中で伝搬することができるのではないでしょうか?

この仮想的な電光掲示板を積み重ねて立体にすれば、現実の3次元空間との対応も可能です。簡単に言うと、空間そのものに電磁波を伝える属性があると考えれば、説明がつくわけです。この属性こそ、電磁場の正体なのではないでしょうか?

これは光の量子だけに限ったことではありません。電子やクォークも量子ですから、粒子としての性質だけでなく、波としての性質をもっています。電子やクォークもまた、電子の場クォークの場という"仮想的な電光掲示板"を伝わる光点に過ぎないのではないでしょうか?

このように、すべての物質つまり量子がそれぞれの場の振動に過ぎないという立場から、量子力学を再構成した理論を場の量子論といいます。

この手の話を正確に伝えるには、高度な数学的な知識が必要になります。今後、多少高校生でも理解できるような部分については、若干数式を交えて解説していきたいと思っていますが、今回はこの辺で止めておきましょう。

2006-09-06

相互作用の話

クォークとレプトンの一覧には、光の量子(光子といいます)が含まれていません。光子は、クォークやレプトンとは種類の異なる量子なのです。以下、"量子"と書くとわかりづらいので、"粒子"と書きます。

まず、物体間に働く力について説明しましょう。力にはいろいろな種類があります。押したり引いたりする力、重力、摩擦力、電気的な力、分子間に働く力などなど。しかし、重力を除くほとんどの力は、本質的に電磁気力が複雑にからまっているだけなのです。重力・電磁気力とは根本的に異なる力もあります。原子核内部で働く強い力と、原子核の分裂反応に関与する弱い力と呼ばれるものです。現在、わかっている力の種類は、本質的に、この4種類だけです。

それでは、とは何なのでしょう?

物体に力を加えると、その物体が変形したり、その物体の運動が変化したりします。ただし、その物体は、勝手に変化したのではなく、力を加えた他の物体があるはずです。そうした力を加えた物体にもまた、何らかの変化が起こっているはずです。力を加えたものと力を加えられたものがともに変化するのですから、どちらが主体とはいえません。そこで、こうした作用を相互作用と呼ぶことにします。


そこで、質問を変えましょう。相互作用とは何でしょう?

物体どうしが互いに何らかの変化を及ぼし合うことというのが1つの答えです。その変化は、なぜ1つの物体からもう1つの物体へと作用するのでしょうか?

先に挙げた4種類の力は、正確には次の相互作用に相当します。ただし、ハドロンとは、核子(陽子・中性子の総称)などのクォークの組合せによって構成される粒子です。

  • 重力相互作用:質量をもつ物体間に作用する。
  • 電磁相互作用:電荷をもつ物体間に作用する。
  • 強い相互作用:ハドロン間に作用する。
  • 弱い相互作用:ハドロンとレプトンの間に作用する。

これらの相互作用の中で、最初にその本質が明らかにされたのは、強い相互作用です。湯川秀樹が発表した中間子論が、その発端でした。湯川英樹が考えたのは、核子間に働く強い相互作用は中間子(当時まだ未発見)を交換しているために生じているのだということです。
このように、"粒子の交換"という形で相互作用を説明したのが画期的なところです。当時は、クォークという概念はありませんので、核子間の作用を考えていましたが、粒子の交換という猫像は、クォーク間でも成り立ちます。クォークどうしを結び付けている強い相互作用に対応する粒子は、グルーオンと呼ばれています。このように、それぞれの相互作用にはその媒体となる粒子が伴っていると考えられているのです。


かなり遠回りでしたが、やっと光の話に戻ります。結論をいうと、光子は電磁相互作用を媒介する粒子なのです。こうした相互作用を媒介する粒子をボソンといいます。ボソンの種類をまとめておきましょう。

ボソンの種類
重力相互作用
電磁相互作用
強い相互作用
弱い相互作用
グラビトンフォトン(光子)
グルーオン
ウィークボソン
未発見質量なし
質量なし
質量をもつ

これらの相互作用のうち、高いエネルギー状態では、弱い相互作用と電磁相互作用は本質的に同一の相互作用であることがわかっています(電弱統一理論)。より高いエネルギー状態では、強い相互作用も同一のものではないかとする大統一理論という考え方や、さらにはすべての相互作用が本質的には同じものなのではないかとする理論(現在、有力なのはM理論)もあります。


素粒子の話

物質の最小単位(素粒子)とは何でしょう?

私たちの身の回りにあるものはすべて、陽子と中性子から成る原子核のまわりにいくつかの電子が取り囲んだ原子やイオンから出来ています。そうすると、あらゆる物質は陽子・中性子・電子だけで出来ているのでしょうか?

電子はある意味で最小単位といってもいいでしょう。しかし、陽子や中性子については、必ずしも最小単位とはいえません。また、陽子や中性子の仲間は、現在では他にもたくさん見つかっています。標準理論といわれる枠組の中では、これらは6種類のクォークという粒子の組合せで説明されます。

クォークの種類
電荷
第1世代
第2世代
第3世代
2/3eupクォーク(u)charmクォーク(c)topクォーク(t)
-1/3edownクォーク(d)strangeクォーク(s)bottomクォーク(d)

さて、この表にある2/3eや-1/3eの電荷とは何でしょうか?

電荷には最小単位があり、素電荷と呼ばれます。素電荷は、電子の電気量と同じ大きさをもつ電荷で、これ以上小さい単位のものは見つかっていません。ここで、eで表したのは素電荷の電気量のことです。しかし、最小単位だと書きましたよね。なのに、クォークはその2/3倍とか1/3倍とか中途半端な値の電荷をもっています。一見、矛盾するようですが、そうではありません。

クォークを単独で取り出すことは出来ないのです。クォークは2つまたは3つの組合せを作り、全体としての電気量が素電荷の整数倍となる形でしか、存在できないと考えられています。

3つ組で整数になるのはわかると思いますが、2/3と-1/3のみの組合せを考えたときに2つで整数になるのでしょうか?

実は、クォークには反対の符号をもつ反粒子が存在しており、それを考慮すれば、2/3+1/3=1などの整数値をとり得るのです。

最初にクォークという粒子と書きましたが、もちろん量子力学で扱わなくてはならないスケールの話ですから、正確には波と粒子の両方の性質をもった量子と書くべきでしょう。そして、量子力学的には、観測できない構造は物理量として定義できないので、クォークが単体で取り出せない以上、わかりやすくモデル化したにすぎません。

ところで、上の表には、電子が含まれていません。電子は、レプトンと呼ばれる素粒子の一種で、他にも同じような性質をもっているμ粒子(ミューオン)τ粒子(タウオン)という仲間がいます。

レプトンの種類
電荷
第1世代
第2世代
第3世代
-e電子(e)μ粒子(μ)τ粒子(τ)
0電子ニュートリノμニュートリノτニュートリノ

この表は、クォークの表に非常によく似ていますね。upクォーク、downクォーク、電子、電子ニュートリノを1組と考えると、それと同じような組合せが3世代連なっているように見えます。自然な発想として、第4世代はないのかという疑問が湧いてきますが、この問題はすでにほぼ決着がついており、第3世代までで終了と考えられています。

クォークがなぜ3つ組や2つ組でしか存在できないのか、またニュートリノって何なの?など、いろいろと疑問点が残りますが、その辺についてはまた別な機会に説明しましょう。


2006-09-04

量子力学の話

私たちは、そこにものがあるということをどのようにして知ることが出来るでしょうか?

自分の眼に見えるものだけがすべてではないし、音に聞こえるものだけがすべてではありません。また、手で触って感じるものだけがすべてではなく、匂いを感じるものや味のわかるものだけがすべてではありません。さらに、頭の中で想像できるものだけがすべてではないのです。

原子よりはるかに小さい世界を考えるとき、観測するということの意味を深く考えなければいけません。眼で見えないものや触ることのできないものがそこに存在するということを証明するのは非常に難しいことです。

1920年代の物理学者たちが創造した量子力学では、測定できないものを勝手に想像することを放棄しています。測定可能なものだけを説明するために、根底から考え方を改めたのです。光が波と粒子の両方の性質を示す事実を知り、波なのか粒子なのかということを問うことをやめて、そのいずれでもないのだと開きなおったわけです。そして、量子という新しい概念を創り出しました。

測定可能な物理量だけを説明するために、さまざまな数学的なアプローチを試みました。その結果、観測対象となるものには常に波動関数という量が付随しており、ある物理量を観測するということはその波動関数にその物理量に特有な操作を行うことであるという概念に達しました。観測結果は、その操作を行った結果として現れる数値だということです。

それでは、観測対象(物体)に付随している「波動関数」なるものの正体は一体何なのでしょう?

これは、その観測対象(物体)が存在する確率を表すものだと考えられています(実際には波動関数の絶対値の2乗が確率に相当しますが)。この考え方こそ、かつてアインシュタインが死ぬまで認めなかったことなのです。というより、アインシュタインが認めたくなかったのは、観測できないものを放置してしまうことだったのかも知れません。科学の革命を起こした張本人ですが、最後は非常に保守的だったようですね。

科学が進歩して、すべての真実が明らかになったとき、やはりアインシュタインの方が正しかったということになるかも知れません。しかし、量子力学とそこから発展した理論は、これまでのどんな理論よりも高い精度で物理量の値を予測し、それが今日に至るまで実証され続けているのです。


2006-09-03

不確定性原理の話

映画を観ているとき、その中の風景や人物は普通に動いているように見えます。映像のスピードが速くなると、速さはある程度正確にわかるようになりますが、位置の情報が徐々に失われてきます。逆に、映像をゆっくりにしていくと、位置はある程度正確にわかるようになりますが、速さの情報が徐々に失われていきます。

ミクロの世界では、現実にこれと同じような現象が起こっています。原子核に束縛された電子の速さ(あるいは運動量)を測定しようとすると、位置の情報が失われて「この範囲」にあるということしかわからなくなります。こうした情報のあいまいさを不確定性といい、位置と速さ(正確には運動量)などの1組の物理量の不確定性を考えたとき、それらの積がプランク定数と呼ばれる量の数倍前後に保たれることを不確定性原理といいます。不確定性原理は、位置と運動量の組合せだけでなく、時間とエネルギーの組合せでも成り立ちます。

そこで、時間とエネルギーに不確定性原理が成り立つとすると、次のようなことが考えられます。つまり、非常に短い時間なら何もないところにエネルギーが生じる可能性があるということです。これは、(相対性理論によれば質量とエネルギーは同等ですから)何もないところに質量をもった物体が現れる可能性があるということを意味しています。

このような「物体」は仮想粒子と呼ばれ、実際には観測できませんが、私たちの住む宇宙は、このようなエネルギーのゆらぎの中から生まれたといわれています。いわば、この宇宙は「」から生じたのです。さらにいえば、宇宙は常に生まれていて、ほとんどの宇宙は一瞬で消え去り、その中で比較的安定した宇宙が私たちの住む宇宙へと発達したのだという説もあります(多元宇宙論)。


時間の話

未来のことを覚えている人はいません。また、過去の出来事を心待ちにする人もいません。時間には前後関係があり、過去から現在へ、現在から未来へと続いていくものだからです。原因があって結果があるのです。このように時間の向きを定めているルールを因果律といいます。

それでは、なぜ時間にはこのような一方通行の性質があるのでしょうか?

実をいうと、物理法則の大部分は時間を逆転させても成り立ちます(時間反転の対称性)。時間の方向を定めているものは、たった3つの理由しかないのです。まず第一に、熱は温かいものから冷たいものへという方向にしか伝わらないということ(エントロピー増大の法則)、第二に、人間の思考の方向性が未来へ向いている、つまり、過去のことは覚えているけど未来のことはわからないということ(思考の一方向性)です。不思議なのは、最後の一つで、これだけはあまりにも具体的なのです。

第三の理由は、中性K中間子が崩壊する方向が未来だということです。専門的には、パリティの非保存などというんですが、このタイプの反応だけが多くの物理法則の中で、時間反転に対して対称になっていないのです。

アインシュタインの相対性理論では、時間を3次元空間の3つの座標と同等のものとして扱っています。しかし、その中で因果律を破るような現象は扱っていないように思います。ホーキングは一時期、過去への旅を可能だとしていたものの、その後、時間順序保護仮説(確かそんなネーミングだったと思いますが)を提唱して、因果律を肯定しました。

結局、時間の方向を決めているのは、自分自身の頭の中だけなのかも知れません。

2006-09-02

Flockからの投稿テスト

Flockを使って投稿してみました。

物理は結構面白い!

中学生の頃から、理科が大好きでした。でも、高校で物理を学んだとき、教科書には天下り的に公式が書いてあって 、何のために必要なのかとか背景に何があるのかとか一切触れてないんですね。ブルーバックスとかは面白かったんですが、高校で学ぶ物理にはあまり興味が無かったんです。

そんな僕が物理に興味を持ったのは、実は大学に入ってからなのです。一応、理学部に相当する学部に入学したんですけど、専攻は決まっていなくて、3年次から専攻に分かれることになっていました。その頃にはすでに、物理を専攻する決心が付いていました。

きっかけとなったのは、尊敬できる先生に出会ったことと大学で学ぶ物理の面白さに目覚めたことでした。特に、量子力学との出会いが大きかったと思います。

アインシュタインは、最後まで神はサイコロを振らないといって反対したようですが、すべての現象、物質の存在自体までもが確率で決まっていて、常識的にあり得ない現象が起こる可能性も決して0にならないというその世界観や哲学に興味を持ちました。

最近は、学生の物理離れが進んでいて、僕が高校生の頃に感じた『つまらない物理』を物理だと思っている人が多くなっています。このブログでは、あなたの思っている物理は本当の物理じゃないんだということを多くの人に伝えたいと思っています。

2006-08-28

Online-Physics始めました。

タイトル通りの内容になるかどうかわかりませんが…

とりあえず、始めてみます。