2006-10-04

宇宙論の話 -その3-

本年度のノーベル物理学賞にジョージ・スムート教授が選ばれたそうです。先ほどニュースで知りました。

スムート教授は、COBE(Cosmic Background Explorer)という宇宙背景放射の観測衛星を使って、宇宙背景放射にゆらぎがあることを実証したことを評価されたようです。このゆらぎが宇宙の初期に銀河の種になったものと考えられています。COBEの予算を獲得する際、「我々は神を見ることができる」といって説得したそうです。

ということで、今回は宇宙背景放射について触れてみたいと思います。

宇宙背景放射は、1964年にベル研究所のペンジャスウィルソンという2人の天文学者が電波望遠鏡の雑音を減らす研究を行っていた際に、偶然発見されました。観測データの中にどうしても消せない雑音があり、そのスペクトルが約3Kの物体から出される黒体輻射に酷似しているということがわかったのです。ペンジャスとウィルソンは、この発見により1978年度のノーベル物理学賞を受賞しています。

実は、宇宙背景放射の発見よりずっと以前(1940年代)にジョージ・ガモフらがビッグバン理論をもとにしてこのタイプの放射の存在を予言していました。当時は、定常宇宙論とビッグバン理論が対立していて、3Kという値はむしろ定常宇宙論の予言する値に近かったのですが、その後、あまりにも滑らかであることがわかり、ビッグバン理論が支持されるようになっていったそうです。

COBEの生のデータを見たことがありますが、黒体輻射に酷似しているなどというレベルではありませんでした。あれはどんなデータよりも正確に黒体輻射そのものです。あんなにエラーバーの狭いデータは見たことありません。寒気がする程、文字どおりピッタリ一致していました。あぁビッグバンは本当にあったんだと感動したものです。仮りに背景放射のゆらぎが発見されていなかったとしても、あのデータだけでノーベル賞ものだと思います。

光の速度が有限である限り、はるか彼方の宇宙を見るということは、はるか昔の宇宙を見るということと同値です。いま100億光年先にある(ように見える)銀河の光は、100億年前にその銀河から放射されたものなのです。宇宙背景放射は、それよりもずっと遠くからやってきています。つまり、銀河が生まれるずっと以前に放射されたものということです。スムート教授が観測した宇宙背景放射は、ビッグバンが起こってからわずか40万年後と考えられています。

現在、我々が観測できる最も遠く最も古い天体は、他でもないこの宇宙そのものなのです。
宇宙背景放射を出している「天体」よりも遠くには何があるのでしょうか?次のように言い換えてもいいでしょう。ビッグバンの前には一体何があったのでしょうか?

いま考えられている答えの1つは「」です。この辺りの話は、素粒子物理にも関係しています。世の中で最も大きな存在が、世の中で最も小さなものの研究と密接に結び付いていることになります。不思議ですね…。