2006-09-03

不確定性原理の話

映画を観ているとき、その中の風景や人物は普通に動いているように見えます。映像のスピードが速くなると、速さはある程度正確にわかるようになりますが、位置の情報が徐々に失われてきます。逆に、映像をゆっくりにしていくと、位置はある程度正確にわかるようになりますが、速さの情報が徐々に失われていきます。

ミクロの世界では、現実にこれと同じような現象が起こっています。原子核に束縛された電子の速さ(あるいは運動量)を測定しようとすると、位置の情報が失われて「この範囲」にあるということしかわからなくなります。こうした情報のあいまいさを不確定性といい、位置と速さ(正確には運動量)などの1組の物理量の不確定性を考えたとき、それらの積がプランク定数と呼ばれる量の数倍前後に保たれることを不確定性原理といいます。不確定性原理は、位置と運動量の組合せだけでなく、時間とエネルギーの組合せでも成り立ちます。

そこで、時間とエネルギーに不確定性原理が成り立つとすると、次のようなことが考えられます。つまり、非常に短い時間なら何もないところにエネルギーが生じる可能性があるということです。これは、(相対性理論によれば質量とエネルギーは同等ですから)何もないところに質量をもった物体が現れる可能性があるということを意味しています。

このような「物体」は仮想粒子と呼ばれ、実際には観測できませんが、私たちの住む宇宙は、このようなエネルギーのゆらぎの中から生まれたといわれています。いわば、この宇宙は「」から生じたのです。さらにいえば、宇宙は常に生まれていて、ほとんどの宇宙は一瞬で消え去り、その中で比較的安定した宇宙が私たちの住む宇宙へと発達したのだという説もあります(多元宇宙論)。